以前、国語学会の学会誌で彼女の仕事に触れたことがある。
「語彙(史的研究) 平成6年・7年における国語学界の展望」(国語学185、1996年6月30日 )から引用。
和名抄と言えば、『箋注倭名類聚抄の研究』(一九八九年〜続刊)で知られる、不破浩子の「飲食語彙について―「ゆ」を中心に―」(「国語と教育」十九号、長崎大学国語国文学会)は、意味分野別語彙の論とも言えるが、飲食語彙が貴族女性の間で口頭語化が忌避される点、すなわち位相によっては認識されても言語化されない点に着目し、語彙資料としての辞書の問題点を浮き彫りにする。中国類書に比して、肉に関する語の地位の低さ、材料となった文献の位相、認識体系のずれが相違点として指摘される。特に三番目の認識体系のずれについては、「漿」「粥」をめぐる語史を通して分析する。平安時代に「ゆ」に「おもゆ」の意味が生じ、限られた位相だが後世まで伝わるとの指摘は興味深い。ここには『箋注倭名類聚抄の研究』の成果の一端が示されたわけだが、全巻の注が完成すれば、画期的な業績となろう。これからどれほど活躍をされるか想像もつかないほどの力量の 研究者として大いに注目していた方だった。
合掌。